前節では、日本の脱炭素目標を解説しました。本節では、グリーン成長戦略と呼ばれる日本の脱炭素ロードマップを学びましょう。政府がどのように2050年カーボンニュートラルを達成しようとしているのか、理解できるようになります。
グリーン成長戦略とは
グリーン成長戦略とは、2050年カーボンニュートラルを実現するために、政府が示した政策の基本となる戦略です。その中には、産業構造の転換やイノベーションを推進するための大胆な投資などが盛り込まれています。経済社会を変革し、確実に世界の脱炭素化目標にコミットすることを目指しています。
グリーン成長戦略の枠組み
ここでは、グリーン成長戦略の枠組みについて解説していきます。グリーン成長戦略の枠組みは、5つの分野から成り立ちます。それぞれについて説明していきます。
- イノベーションを資金的に援助するために、基金を設立
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を設立
- 2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設
- 企業を今後10年間、継続して支援
- 民間企業の野心的なイノベーション投資を引き出すことが狙い
- 2兆円の基金を呼び水として、15兆円の民間投資を狙う
- 単なる研究開発に終わらず、社会実装までつながるように対策
- 経営者に、野心的で具体的な目標を、経営課題として取り組むというコミットメントを求める
- 企業の脱炭素化投資を後押しする大胆な税制措置で、民間投資を呼び込む
- 「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」をつくる
- 10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を目指す
- 税制措置の例として、脱炭素化の効果が高い製品のために、税の優遇措置
- 燃料電池、洋上風力発電設備の主要専門部品などは、脱炭素に高い効果あり
- 効果の高い製品をつくるための生産設備を導入した場合、一定の税の優遇
- また、研究開発投資をおこなう企業には、税の控除額上限引き上げ
- コロナ禍の苦しい状況でも積極的な研究開発投資をおこなう企業を後押し
- 「研究開発税制」でみとめられている税の控除上限を引き上げる
- 企業の投資意欲を引き出す
- 再エネの導入に加えて、低炭素化、脱炭素化に向けた革新的技術への投資が必要
ー「低炭素化」とは、省エネなどでCO2排出量を減らすこと - 低炭素化、脱炭素化に民間投資を呼び込む政策あり
- 長期的な事業計画を遂行する事業者への資金供給の仕組みをつくる
ー10年以上の長期的な事業計画の認定を受けた事業者が対象
ー長期資金供給のしくみを創設
ー成果連動型の「利子補給制度」も創設 - 一定の要件を満たせば、利子に相当する助成金を受け取ることができる制度
- 融資規模は、3年間で1兆円
ー事業者による、長期間にわたるトランジションの取り組みを推進 - また、TCFDなどの取組みを通して、気候変動に関する情報開示を促進
ーTCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォースのこと
ー気候変動に関する企業の積極的な情報開示を促す - 加えて、金融機関や金融資本市場が、適切に機能する環境整備が重要
- 「ソーシャルボンド」を円滑に発行できるように
ーソーシャルボンド(SB)とは、社会課題に取り組む事業の資金調達のために発行される債券
ーSB発行に向けて、金融機関の協力体制を構築することが重要
- 技術を社会に実装しようとしたときに、規制の問題が存在
- 需要を拡大し、量産化を目指すために、規制を見直し
ー新技術の導入が進むよう規制は、強化
ー新技術の導入をはばむような不合理な規制は、緩和 - また、新技術が世界で活用されやすくなるよう、国際標準化にも取り組む
ーたとえば、水素を国際輸送する際の関連機器の国際標準化
ー再エネが優先して送電網を利用できるような電力系統運用ルールの見直し
ー自動車の電動化を推進するための燃費規制の活用 - また、市場メカニズムを用いた経済的手法なども、幅広く検討
ーCO2に“価格”をつける「カーボンプライシング」
ー成長につながるものは、既存の制度活用や新たな制度づくりを含めて幅広く検討・活用
・日本の国際貢献は、日本の最先端技術で、世界の脱炭素化をリードすること
・技術提供は特にエネルギー需要の増加が見込まれるアジアにおいて必要不可欠
・米国・欧州との間では、規格の面で連携
ーイノベーション政策における連携
ー新興国をはじめとする第三国での脱炭素化支援などの個別プロジェクトを推進
ー技術の標準化
ー貿易に関するルールづくり
・また、アジア新興国との間では低炭素化への移行を支援
ーたとえば、カーボンリサイクル、水素、洋上風力、CO2回収といった分野での連携
・二国間や多国間の協力を進め、脱炭素化に向けた取り組みに貢献していく
具体的に決まっていることは少ない?!
ここまで、日本が2050年ネットゼロを達成するために、日本政府の施策について説明してきました。どのようにネットゼロを達成するのかは、まだまだ議論して詰めなければならないことがたくさんあります。そのため、少し抽象的だと思った方もいたかもしれません。しかし、大枠で政府ができることを概観すると、いかに民間のパワーに期待しているかがうかがえます。
政府の予算の決め方として、まず大きな予算を取ってから詳細を詰めて配分していくことが多いです。そのため、グリーン成長戦略も同じで、大きな方向性を先に打ち出してから具体についてはあとから決まっていくとみられます。
政府・自治体施設への太陽光の導入
国のエネルギー政策をまとめた「エネルギー基本計画」では、太陽光発電について、「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく政府実行計画等に基づき、公共部門を率先して実行」することとされています。
また、地域脱炭素ロードマップ(国・地方脱炭素実現会議決定)において、「政府及び自治体の建築物及び土地では、2030年には設置可能な建築物等の約50%に太陽光発電設備が導入され、2040年には100%導入されていることを目指す」とされています。
国や自治体が率先して脱炭素を進めることで、国内での脱炭素を推進したい考えです。
「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の推計によると、公共施設で約6GWの太陽光発電が見込まれています。設置できそうな場所は多くても、様々な制約があるため、実際に導入できる量は少なくなってしまいます。しかし、このような取り組みを重ねることで、国全体として脱炭素の方向に向くことは間違いありません。
本節では、日本の脱炭素に向けた取り組みを紹介してきました。次節からは、企業に求められる脱炭素化について見ていきます。